2010年以降の仏教ブーム~サブカル化・易行化~
要旨要約
2010年以降の仏教ブームは、仏像ブーム・阿修羅ブームを経て、「仏女」「社ガール」「僧侶系男子」「美坊主」「坊主bar」「パワースポットブーム」「御朱印ガール」等や漫画・アニメなどのサブカル化が顕著であり、また「般若心経の現代語訳」や禅・瞑想から宗教性を取り除いた「マインドフルネス」から分かるように易行化しているのが特徴である。
はじめに
仏教ブームと言われて久しい。巷では有名なのは「仏像ブーム」「御朱印ブーム」「マインドフルネス(禅・瞑想)」の3つであろう(所説アリ)。これらを2010年以降の仏教ブームの歴史として記述してみたい。また最近ではサブカル化の極みとして、釈尊の教えからは逸脱(?)した「僧侶とビッチのエロアニメ」なるものまで登場しているので、それも簡単に紹介しておきたい。尚、「お坊さん便と葬式仏教の崩壊」や「仏教界の政治的発言・パフォーマンス」というテーマは次回以降に譲りたい。
仏教ブームの歴史(2008年前後~2017年)
現在の仏教ブームは2008年前後の仏像ブームから始まり、歴女をもじった仏女(ぶつじょ)と呼ばれる仏像が好きな若年女性が現れるようになる。2009年には総来場者数190万人を記録した『国宝 阿修羅展』をきっかけに阿修羅ブームが沸き起こる。
展示会の一日の入場者数は15,960人/日。この数字は2016年に話題となった『若沖展(44万人)』の14,300人/日を上回っており、過去10年の全ての美術展の来場者数ランキングにおいて堂々の1位である。またこの時の阿修羅ブームでは一体数万もする阿修羅像フィギアが飛ぶように売れた。
2011年には東日本大震災が起こり、震災関連の書籍と共に仏教の入門書や僧侶のエッセーなど宗教を特集した本や雑誌が続々と刊行された。また笑い飯哲夫やみうらじゅん等のタレント本(彼らの本は非常に分かりやすい)や既存の「仏像ガール(仏女)」「寺ガール」という言葉に加えて「社ガール」「美坊主」「僧侶系男子」などが登場しサブカル化が加速していく。僧侶では小池龍之介(彼の著作『考えない練習』は素晴らしい)やニコニコ動画で著名な蝉丸Pなどの若手の僧侶がメディアにも取り上げられるようになる。またニコニコ動画では「般若心経の現代語訳」が話題となり、手塚治虫による名作『ブッダ』もアニメ化された。
その間スピリチュアル界では、2009年に人気番組『オーラの泉』が終了するものの、2010年にはパワースポットブームが起こり伊勢神宮の参拝者は過去最高を更新する。またテレビのバラエティーにはオーラや守護霊を売りにしたスピリチュアル系のタレントも頻繁に登場し、ブームとは言えないが依然として根強い人気があった。
2013年の後半から2014年の前半にかけて「御朱印ガール」が登場する。寺社に訪れ「御朱印」を集めることは以前からあったものの、ブームと言われるまでに成長した背景には、「御朱印」そのものをスタンプラリーの要領で集めることの楽しさに加え、これまでの「仏像ブーム」や「パワースポットブーム」で寺社に訪れる事の心理的ハードルがなくなっていたこと等が影響していると思われる。
また2014年には深夜のトーク番組「お坊さんバラエティー ぶっちゃけ寺」の放送が開始され、「坊主bar」など若手の僧侶の活躍がしていくようになる。同様に仏の教えを広める仏教系アイドルも複数グループ登場する。また以前から欧米でも広く受けいれられていた禅は、2014年頃からアメリカを中心に宗教性が排除された「マインドフルネス」としてgoogleやintelなどの企業の人的資源管理の一環として取り入れられ、日本でも2016年にかけてマインドフルネス関連本が多数出版され、ビジネスマン&ウーマンにも瞑想や禅の実践を日常的に行うものが現れる。
また漫画界においても、仏教漫画は2010年から2015年の5年の期間において発行されたタイトル数が2000年代に発行されたタイトル数を超え、また累計発行部数も上回っており、仏教をテーマにした著作物の発行が非常に盛んである。また作品の傾向としては現代の僧侶、特に若手僧侶の苦悩をコミカルなタッチで描いているものが目立つようになってきている。また2017年4月からは『僧侶と交わる色欲の夜に』
というブッダも呆れるようなエロアニメが地上波で放送される。サブテーマは「僧侶の前に、俺だって男だよ」である。主人公:美桜の惚れた相手:隆秀は僧侶という身分でありながら、自分の実家のリビングや物置小屋で美桜に行為を強要するなんとも節操のない男である。また美桜自身も隆秀の弟:雪秀と簡単に寝るような尻軽である。まあこれに関してはアニメか原作を見て貰いたい。
総評
これらの2010年以降のサブカル化と易行という仏教ブームは、原始仏教的な釈迦本来の教えや思想・哲学的な部分(僕はここに仏教らしさがあると思う。Buddhism is not a religion — but a philosophy or way of life)が蔑ろにされているという批判もありつつも、仏教史において一つの時代を形成しているように思える。しかし、これらのニューカルチャーは宗派発信でないことが仏教界(伝統宗教)の旧態依然的性質を物語っており、大衆と宗派のとの間に大きな隔たりがあるように思える。また葬式仏教自身もイオンやAmazonなどの革新的サービスに押されており、この問題も2010年以降の仏教を語る上で外せないテーマである。
参考資料
仏教ブームについて 僧侶による一般向けの取り組み・イベントに関する 2012 年の調査から
参考年表:仏教界等の主要な出来事
2010年 仏像ブーム
2011年 仏教のサブカル化
2012年
- 1月 池田大作創価学会名誉会長、脱原発を提言
- 4月 東北大学「実践宗教学寄附講座」開設、臨床宗教師養成へ
- 6月 初の「神社検定」実施、5556人が受験し、4606人が参級に合格
- 8月 世界宗教者平和の祈り、原発を問題視した「比叡山メッセージ2012」を発表
- 9月 曹洞宗、懺謝文の公式サイトへの掲載を一時中止
- 9月 オウム真理教事件、捜査終結
2013年
- 5月 出雲大社の「平成の大遷宮」、60年ぶりの本殿遷座祭
- 6月 富士山、ユネスコの世界文化遺産に登録決定
- 9月 イオン、3万5000円からの納骨・永代供養サービス開始
- 10月 伊勢神宮の「式年遷宮」、2日に内宮で「遷御の儀」、5日に外宮で「遷御の儀」
2014年 御朱印ブーム
- 2月 国内初の「インターフェイス(諸宗教間交流)」駅伝が、京都で開催
- 3月 浄土宗総合研究所、エンディングノート『縁(えにし)の手帖』発行
- 5月 創価学会、朝日新聞の取材に回答し、集団的自衛権容認に懸念表明
- 7月 集団的自衛権行使容認に全日本仏教会などが懸念を表明
- 9月 深夜のトーク番組「お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺」放送開始
2015年
- 3月 臨床仏教研究所(全国青少年教化協議会)、「臨床仏教師」6人認定
- 6月 真宗大谷派宗議会、「非戦決議2015」採択
- 9月 安保法成立に、真宗大谷派、立正佼成会、孝道教団などが声明
- 12月 真宗大谷派、最高裁で本願寺維持財団に敗訴確定、「お東紛争」終結へ
- 12月 amazonで「お坊さん便」取り扱い開始
2016年 マインドフルネス